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所長マイクのブログ,2019年ブログ2019/08/13
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“育ち”が遺伝子に与える影響
米イリノイ大学のジーン・ロビンソン教授は2009年に発表した論文で、“育ち”が遺伝子に与える影響について実験を行った。
彼が注目したのは、非常に気性が穏やかなイタリアミツバチと、集団で人を刺し殺すこともある獰猛なアフリカナイズドミツバチ(以後キラー・ビー)だ。
ミツバチ類は高度な社会性をもつ昆虫で、それぞれの役割は階層により成り立っている。
これらのミツバチの見かけにほとんど変わりはないが、キラー・ビーには自分のテリトリーを守るため、非常に攻撃的になるという性質がある。
そこで研究チームは、それぞれの幼虫を孵化一日目で別種の巣に移し、2種類のミツバチがどのような性格に育つのか、という実験を行った。
ロビンソンの以前の実験で明らかになっていたのは、孵化したばかりの幼虫ならば、別種でもそれぞれの巣に受け入れられるということ。
そして“養子”に出されたイタリアミツバチは、養い親のキラー・ビーと同じようにキレやすく攻撃的になり、逆にイタリアミツバチに育てられたキラー・ビーは、育ての親に倣っておとなしくなるということだった。
ロビンソンは、年を重ねたキラー・ビーがより攻撃的になる性質を受け、警戒フェロモンという“環境的な刺激”が、個体をより凶暴化させることに注目。
詳細な遺伝子解析の結果、キラー・ビーの5〜10%の遺伝子は警戒フェロモンに反応し、護衛、兵隊、食料調達などの役割を決めていたことを突きとめた。
驚くことに、キラー・ビーの警戒フェロモンに晒されて育ったイタリアミツバチの遺伝子も、これに影響を受けていたのだ。
生まれもったゲノムの塩基配列はもちろん変わっていなかった。
しかし、イタリアミツバチは警戒フェロモンの影響により、温厚から獰猛な性格になるように、「遺伝子のスイッチ」が大きく切り替わっていたのである。
環境によって変化する遺伝子のスイッチ。
このコンセプトは1942年にコンラッド・H・ウォディングトンにより初めて提唱され、「エピジェネティックス」と呼ばれている。
二重らせんで成り立っているDNAや、DNAが巻き付いているヒストンたんぱく質を、有機分子が後天的に化学装飾(DNAのメチル化やヒストンのアセチル化)するもので、これが親から受け継いだ遺伝情報をオンにしたりオフにしたりと調節しているのだ。
この有機分子はひとたび化学装飾が起こると、長い間、時には一生付着することとなる。
最近の研究では、ライフスタイル、食生活、社会的変化、環境汚染、また心理的な変化によっても、エピゲノムが変化することが明らかになっている。
遺伝子と環境の間。
氏と育ちの隙間。
そこにエピジェネティックスが作用する。
そして環境からの情報を取り込むことで生じた一部のエピジェネティクスは、なんと次世代へと遺伝することが明らかになってきたのだ。
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